SSルミミカトラックの荷台から空を見る。遮るものの何もない青い空 - いもげばこ−二次元裏img@ふたば過去ログ保管庫


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16/10/30(日)11:38:21 No.387770957 del
SS ルミミカ

トラックの荷台から空を見る。遮るものの何もない青い空を。
断続的に伝わるかたたん、かたたんという振動に自分自身を感じながら、薄いベージュ髪の少女は運転手に見つからないようゆっくりと寝返りを打った。

東京を出発してからかれこれ二時間ほど経った。乱雑に積まれた段ボールの文字を見るに、どうやらこの車は地方から品物を引き取りに来た古物商の車らしい。
どこに向かうのかは分からない。ナンバープレートなど最初から見ていないし、方向感覚は眠りと目覚めを繰り返すうちにすっかりと狂ってしまっている。
ただ少女が先程目にしたの青看板に長野の地名が書いてあったので、辛うじて西に向かっていることは窺い知れた。
とはいえ、少女にはこの車がどこへ行こうとどうでもいい事なのだが。
16/12/05(月)19:33:50 No.387770957
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/10/30(日)11:40:45 No.387771292
小さな体を丸めて再び眠りに就こうとし、少女は自分の頭が思ったよりもずっと冴えていることに気づく。
短い眠りと覚醒を繰り返したせいだろうか。さんさんと照りつける陽光もあるかもしれない。
ともかく少女の目は既に醒めきっているようで、仕方なく彼女はバックミラーに映らないよう体をLの字にしてトラックの前方に座った。
通行人や対向車の運転手が時折不審な目でこちらを見るが、特に何かをされたり、言われたりするような事はない。
堂々としていれば、人は勝手に都合のいい解釈をしてくれる。少女がここ数日で学んだ事のうちの一つだった。

特に見るものもないので、少女はもう一度一面の青い空を見上げる。
それはどこまでも自由に広がっているようでいて──しかし少女にはむしろ、親に置いて行かれた子供のように儚く頼りないものを感じていた。
16/10/30(日)11:41:26 No.387771384
この少女が名を捨てて家を飛び出したのはつい先日のことである。
原因は、とても些細な親子喧嘩。いつものように棘だらけの言葉を投げつけられて、いつものように対話を放棄して逃げ出し、
そしてこの日はいつもよりほんの少しだけ、自分の行動力が輝いた。たったそれだけの事だった。

母の言はいつも何を言っているのかよく分からない。なぜいつも妹と比較されるのか、なぜいつも行動のひとつひとつを監視され事あるごとに指摘を受けるのか、完全に理解しきるにはあまりに少女は若すぎた。
ゆえに家を出たのである。もともと少女は旅人の出てくる物語が好きで、その内容を少し現代的にアレンジすれば、放浪という目的のための手段には困らなかった。
お金を使わずに食事をするいくつかのやり方も、今のところはうまくやってのけることが出来た。特に抵抗も呵責もなかった。自分にはそういう才能があるのかな、と少女は考えていた。

……戦車の才能は、なかったけど。
16/12/05(月)19:33:50 No.387770957
1477795101503.jpg-(122127 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/10/30(日)11:41:47 No.387771439
忌まわしい鉄の塊を思い出し少女は気持ちに影を落とす。しかしアンニュイに浸っている暇もなく、トラックがハザードランプを出して止まったことで少女は思考を切り替えた。
運転席から聞こえる物音にやおら立ち上がると、少女は身をひるがえして助手席側から飛び降りる。
一息に駆けだす。幸運なことに、路地があるどこかの町で停車したようである。2.5秒後、後ろから運転手の声がかかってきた。
それが罵声か、あるいは別の優しい言葉なのかは分からない。どちらにせよ逃げ出した少女にはもう興味のないことだった。
16/10/30(日)11:41:56 No.387771461
こんな時間にきたのか!?
16/12/05(月)19:33:50 No.387770957
1477795101503.jpg-(122127 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/10/30(日)11:42:14 No.387771507


そんな生活が何日続いただろう。少女はぼんやりと、自分はきっとこのまま何所にも属することなく、風に吹かれて生きてそして死ぬのだろうなと考えていた。
ただ誤算があったとすれば、食い逃げにタダ乗りも繰り返せばきちんと警察に顔を覚えてもらえるということである。
物事を自分と世界で考えていた少女は、現実に立ちはだかる社会の壁を些か甘く見ていたようだった。

ひとたび外を歩けなくなると、少女の生活は一変する。
そして今まで一人で生きてきたつもりの自分がいかに「社会」というやつに支えられていたのかという事を、改めて深く思い知らされることになった。

小銭集めもままならず、食糧探しもさせてはもらえず、人気のない廃屋や神社で浅い眠りを繰り返す日々。
社会に甘えて詩人を気取っていた頃はあんなにも好きだった風が、今はただ体温を奪っていく。体を撫でる秋口の寒さが恨めしかった。
16/10/30(日)11:43:59 No.387771760
もはや鳴くことすらなくなった腹の虫を抱えながら、少女は気がつくと何処ぞの山の中を歩いていた。
人の目のある街中よりかは些かマシな潜伏場所と考えたのである。少なくとも、齧る木の根には困らないのがよかった。

少女に今やトラックに乗っていた頃の面影はなく、目は落ちくぼみ、髪は泥土にまみれ淡い栗色に染まっている。
死ぬまでは生きていたいと思いここまでやってきたが、少女はそろそろ自分の限界が近い事を悟っていた。

泥に足がもつれ地面に倒れ込むと、少女は自分の体にはもう起き上がるだけの力がないことを知る。
かさかさの指が何やら硬質なものに触れている。廃屋の壁か何かだろうか? 大きな銀色の建築物に触れているのはぼんやりと見えるが、それ以上のことは分からない。
16/10/30(日)11:44:29 No.387771833
だけど――ああ――もう、いいか。

少女はひとつ満足をして、その硬質なものを人生最後の記憶とした。

この日、とある山中で少女が一人死んだ。
夏の虫の音とともに訪れたその静かな死は、誰に知られることもなかった。

ただ一人、硬質な壁の持ち主を除いては。
16/10/30(日)11:45:01 No.387771918



真っ暗な瞼の裏にちかちかと瞬いて消える赤色を見る。少女はしばらくの間自分が生きているということを実感できず、目をつむったまま視界の赤を追いかけていた。
しかしやがて覚醒した意識が感覚を呼び起こすと、少女はゆっくりと自分の体全体にかかる違和感に気づいていく。

北風にさらされ続けていた体は温かく、柔らかいものでくるまれている。
爆ぜて音を奏でる何やら高い音が聞こえる。
嗅ぎ飽きた木と草と虫の匂いに交じり、鉄と炎の匂いがする。

少女はそこでようやくゆっくりと目を開き、暖かな焚き火と、その近くに腰かける薄ぼんやりとした人影を見た。

「ああ、生きてた」

人影はさして興味もなさそうに言うと、コッフェルのカップに口をつけてこくりと飲む。
16/10/30(日)11:45:31 No.387771992
少女は少しずつはっきりとしていく意識の中、まずこの場からどのように逃げるべきかを考えた。
しかし少し試してみてすぐに無駄なことだと分かる。拘束されているわけではない。自分自身が極限の空腹状態でもう指一本動かせないのだ。

「腹減ってそうだね。これ食う?」

そんな矢先、人影がゆっくりと立ち上がり何かを少女の口に近づける。いつぶりかの動物性タンパクの匂いに少女はなりふり構わず口を近づけ、食いちぎった。
カラカラの口内が唾液分泌の材料を得て歓喜に打ち震える。人影が差しだしたのは単なる魚肉ソーセージだが、今の少女には何物にも代えがたい味に感じられた。
栄養が血となり巡ってゆくと幾ばくか体の調子も戻ってくる。少女の目にようやく仄かな光がともり、薄ぼんやりとした人影は次第に色と形を持っていった。

空色のジャージに漢字一字をあしらったエンブレム。浅黄色の髪を隠すようなチューリップハット。
丸くて大きな眼鏡をかけ、釣り目気味でにやりと笑う胡散臭い人影はこう名乗った。

「私はルミ。あんたは?」
16/10/30(日)11:45:55 No.387772053
しかし少女はその声に答えない。ソーセージを何者にも奪われないよう両手でがっしりと握り、ルミと名乗る女にはただ攻撃的な視線を向けるばかりだった。
少し前の少女なら言葉の一つも返していたかもしれないが、なにしろここ何日か人の目につけば捕えられるような生活を送ってきた少女である。
この都合の良すぎる女は、自分を陥れようとしているのではないか。そんな妄想を捨て切れずにいたのである。

「……まったく、野良犬みたいな目しちゃって。ま、こんな場所でこんな目に遭ってるってことは、まず真っ当じゃないんだろうけど」

訳知り顔でうなずくルミ。遠慮のない物言いに少女は睨みを利かせたが、図星なのもまた事実である。
関わりを拒絶するように粗雑に、乱暴にソーセージを食らう少女をしかしルミはむしろ面白そうに眺めていた。
16/10/30(日)11:46:32 No.387772133
気に入らない女だ、と少女は思う。
ルミの目。自分のようなやつの事は何でも知っているぞと言わんばかりの、その余裕たっぷりの目が少女にはいたく気に入らなかった。
ゆえに、こんな女にいつまでも構っている必要はないと考えた。
食料を口にして少しは体力も湧いてきた。こんな胡散臭いやつの所はさっさと立ち去って今日のねぐらを探すことにしようと――

「ソーセージ、もう一本食う?」

浮かせかけた腰を落ち着け、少女は差し出される動物性タンパクをおとなしく受け取った。
16/10/30(日)11:47:00 No.387772206


焚き火の前に座り、少女はもふもふと三本目のソーセージを食べる。
気づけば暗く帳を下した空に星が瞬いており、少女はそこでようやく今が夜なことを自覚した。

ルミはよく喋る女だった。ろくに相槌も打たない少女相手によく分からない話を先ほどからずっと喋り続けている。
やれ学食がどうの、越境がどうの、ピロシキがどうのと妙な単語が多すぎて元より聞く気のない少女の頭には少しも入ってこなかった。

暖かい焚き火と味のある食事、そのおかげで少女の体力と気力はすっかり元に戻っている。
依然として喋っているルミをどこか冷めた目で見ながら、そろそろ頃合いと考え立ち上がろうとした。
食いものだけ貰って去る形になるが、今更少女にとってはどうということはない。
次からはこうならないよう、上手い食事のありつき方を考えないと……少女がそんな事を考えた時のことである。

ルミを挟んでずっと向こうの暗闇から、星のような瞬きが二、三度起こったのは。
16/10/30(日)11:47:23 No.387772256
「――!?」

直後、轟音。耳をつんざくような音にぐらりと体をふらつかせながらも、少女はそれがソ連戦車T−38の砲撃音である事をすぐに悟る。
経験から車種は分かった。しかし何故、こんな所で、こんな時に砲撃されるのかは少しも分からない。
分からないままに目を白黒させていると、血相を変えたルミに突然ぐいと腕を引かれる。

「ほらソーセージ好き、さっさと乗った! 捕まったら何されるか分かったもんじゃない!」

言うが早いがルミは少女の背後にそびえ立つ鉄塊に足を掛けるとカン、カン、カンと小気味いい音を立てて登っていく。
そこで初めて少女は振り向き、自分の背後に一両の戦車が佇んでいることに気づいたのである。

「BT−42!」

フィンランドの突撃砲が何故ここに、と口に出す前に遠方の戦車から二発目が飛んで来る。弾はだいぶ手前に着弾したが、恐らくあれは威嚇だ。
野営中のこちらを発見し、一両だけと見て降服勧告代わりに一、二発見舞ったのだろう。
16/10/30(日)11:48:29 No.387772438
――ちょっと待て、と少女は働き始めた脳髄をフルに回転させて考える。

もし自分の考えている通りなら……ルミがBT‐42を動かしはじめたら、威嚇じゃない本物の戦車戦が始まってしまう。
そうなると一番危険なのは、生身のまま戦車戦のただなかに放り出されるハメになる、私じゃないか!

少女は大慌てでBT−48の身体に足を掛ける。ルミは既にエンジンをかけたようだ。冗談じゃない!
置いて行かれる前に飛び掛かるようにキューポラへ入り込むと、中ではルミが予想通りの胡散臭い笑みをこちらに向けて指を弾いた。

「やっぱり来たね、名無しのお嬢さん」
「来るに決まっているだろう! あのままじゃイハンタラの中でピクニックする事になる!
 というかルミ、君いったい何者なんだ、T−38が野営中にいきなり撃ってくるなんて尋常じゃない。おまけにこのBT−42はどこから!」

畳みかけるような質問の嵐にルミは少し驚いたように目を白黒させたが、やがてにっこりと笑いながら運転席に座る。

「……へえ、アンタそう言う風に喋るんだ」
16/10/30(日)11:49:28 No.387772595
「っ!」

想像していない方向から返され、少女はどうにもばつが悪く口を閉じて顔を伏せった。
ルミに初めて口をきいた瞬間、今まで喋らずにいた自分が逆説的にひどく幼稚に感じられたのである。
しかしルミはそんな少女の羞恥などどこ吹く風とチューリップハットをかぶり直し、口笛を吹きながらゆっくりとアクセルペダルに体重をかけ始めた。

「私が何者かって? さっきも言ったけどね――」

排気口から煙が上がり、車輪が回り始める。

「『こんな場所でこんな目に遭ってる』、つまり私もアンタと同じってこと!」

轟音と共に、どうにか砲手席に居場所を見つけて座った少女の体が後ろに引き寄せられる。
直後、野営地に砲弾が撃ち込まれ乾いた枝のいくつかが火の衣をまとったままあちこちに吹き飛んで行った。
16/10/30(日)11:51:01 No.387772831
きたのか!
16/10/30(日)11:51:50 No.387772964
というわけでルミミカ書いたよ
長いので続きは塩で
su1624390.txt
16/10/30(日)11:58:33 No.387774022
やはりルミミカは王道であったか…
16/10/30(日)11:59:15 No.387774154
おお…凄くよかった…
ルミミカいい…
16/10/30(日)12:01:21 No.387774456
この二人だとミカの方が受け身が受け身になるのか…
16/10/30(日)12:08:35 No.387775576
やはりミカは島田の子…
16/10/30(日)12:08:45 No.387775594
いったいミカの正体は何者なんだ…!
16/10/30(日)12:12:06 No.387776175
やっぱり風に流されたんだ
16/10/30(日)12:16:38 No.387776898
家出少女の理想が現実を前に打ち砕かれるのいいよね…
それでもまだ旅を続けると言えるミカはとんだ数寄者だな
16/10/30(日)12:17:47 No.387777091
いい…上手いこといえないけどすごくよかった…
16/10/30(日)12:18:35 No.387777236
継続になる前から継続常習犯なのかよ!
16/10/30(日)12:23:13 No.387778027
しかしこんな素行の悪さなのに大学選抜で良いポジションまで上り詰めたとなると
ルミの戦車の腕はよほど買われているのか
それとも島田流に恩着せたのか…
16/10/30(日)12:31:39 No.387779369
映画みるにルミは頑張る割にちょっと2人より技量足りてない感じはする
16/10/30(日)12:35:10 No.387779902
BT-42が48になってたりT-38は水陸両用戦車の事なのかT-34の誤記なのか気になるけど
それはルミミカの前では重要なことじゃないね…
16/12/05(月)19:33:51 No.387770957
1477795101503.jpg-(122127 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!


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