【SS】前回までのお話su1646906.txt「失礼します。奥様、食事の準備 - いもげばこ−二次元裏img@ふたば過去ログ保管庫


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16/11/20(日)01:29:57 No.391843954 del
【SS】
前回までのお話
su1646906.txt
16/12/05(月)23:39:15 No.391843954
1479572997420.jpg-(32419 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/11/20(日)01:31:07 No.391844155
「失礼します。奥様、食事の準備が整いました」
 黒森峰学園艦にある西住亭。
 学園艦の中においてもかなり大きな屋敷であるそこで、女中の菊代は主人であるしほに夕食の準備ができたことを伝えに来た。
「……奥様?」
 しかし、しほは答えない。
 そもそも、部屋の様子がまずおかしかった。
 部屋には灯りが灯っておらず、しほは暗い部屋の中でただ黙って正座しているだけだった。
「あの……」
「…………」
 菊代の呼びかけにもしほは黙ったまま座る。
 もしかして邪魔されたくないのではと思い、菊代は一旦引き返そうと立ち上がろうとした。
「……菊代」
 だが、そのときしほは小さな声で菊代の名を呼んだ。
「……はい」
 菊代はそれに落ち着いた声で答え再び座り直した。
16/11/20(日)01:31:29 No.391844211
「……私は、どうすればいいのでしょうか」
「……と、いいますと?」
 菊代はしほの言葉をゆっくりと待つ。こうしてしほが菊代に相談してくることは少ない。菊代は、しほがあらゆることを背負い込む性格だと知っていた。
「私は、西住流の家元として正しいと思うことをしてきました。これまで、ずっと。しかしそれは、本当に母として正しいことだったのでしょうか?」
「…………」
「今日、まほとみほに会いました。そのとき、私の心は複雑な気持ちで満たされました。一つは、母としての嬉しさ。娘達が知らぬ土地で友人を得て幸せそうにしていること。もう一つは、家元としての怒り。西住流に背を向けて黒森峰を出て行ったのに新たな土地で戦車道を始めるなど、西住流にもとる行為です。その二つの感情がせめぎ合い、私は家元としての怒りを優先しました。まほもみほも黙っていました。きっと呆れていたのでしょうね。でも、私にはそれしかできなかった。それが、私の生き方ですから……」
「……はい」
 菊代はただ一言返事をした。
 肯定でも否定でもない、ただの返事だ。
 しほは話し続ける。
16/12/05(月)23:39:15 No.391843954
1479572997420.jpg-(32419 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/11/20(日)01:31:49 No.391844265
「しかし私が感情を荒立てる前にエリカが怒ってくれたおかげで冷静になれ、私は母としての感情を思い出しました。私は……迷っているのです、今更。母として生きるべきか、家元として生きるべきか……。馬鹿馬鹿しいでしょう。これまでずっと家元として生きてきたというのに」
「……私は」
 菊代はそこまでしほの話を聞くと、あくまで冷静な様子で口を開いた。
「私は、奥様のしたいままになさるとよいと思います」
「だから、それが分からないと……」
「いいえ、奥様は既に答えを出しているのです。ただ、それに気がついていないだけかと……。このようなことを言うご無礼をどうかお許し下さい、奥様」
 菊代はゆっくりとしほに頭を下げた。
 その菊代を見て、しほは僅かに笑みを浮かべた。
16/11/20(日)01:32:06 No.391844317
「……まったく、あなたには敵いませんね」
「いいえ、私はただの女中。私の言葉など、木々のざわめき程度にしか過ぎません。決めるのは、奥様自身ですから」
「ふふ、そうですね……さて、それでは遅くなりましたが夕食を頂きましょう。菊代、今日の献立は何かしら?」
 しほはすくっと立ち上がるといつも通りの調子を取り戻していった。
 菊代は、そのしほにいつも通りの笑顔で返した。
「はい。今日の献立は――」
16/12/05(月)23:39:15 No.391843954
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/11/20(日)01:32:06 No.391844320
西住流のやつ来たな…
16/11/20(日)01:32:23 No.391844383
   ◇◆◇◆◇


「許さない、許さない、許さない……!」
 エリカは寮の自室にて、そう呟きながら机に向かっていた。
 しほの立てたスケジュールにおいては、もう勉強は辞めるはずの時間帯である。しかし、エリカは勉強をやめようとはしなかった。
「許さない、許さない、許さない……!」
 全身を駆け巡る怒りが、彼女の手を、目を、口を止めなかった。
 エリカは呪詛の言葉を吐き続けながらも勉強に励んでいた。それは極めて異様な光景だった。
「私は絶対に許さない……!」
 エリカが戦車喫茶で西住姉妹に会ったときの怒りは未だ冷めやらず。
 むしろより激しく燃え、エリカを駆り立てていた。
 その日から、エリカの張り詰めた生活が元に戻ってしまった。
16/11/20(日)01:33:03 No.391844512
   ◇◆◇◆◇


「しほさん! もっと……もっと私に訓練をお願いします!」
 翌日の訓練から、エリカはより内容の向上をしほに頼むようになった。
 しほとしては、エリカがより高みを目指してくれるのは嬉しいことだったのだが、訓練の様子からエリカの様子が何かおかしいことは分かっていた。
 だが、それは自分の娘達に会って感化されただろう程度にしかしほは思っていなかった。
 それは正しくも間違っていた。
 感化されたのはその通りである。
 しかし、その程度はしほが考えている以上のものだった。
「駄目です。現状のままで十分です」
 しほは最初過度な訓練によって体を壊すことを懸念し、エリカの頼みを断っていた。
「そこをどうにかお願いしますしほさん! 私はもっと……もっと強くなりたいんです!」
16/11/20(日)01:33:23 No.391844572
 けれども、エリカはそれでもずっと食い下がった。
 しほはそれを知波単学園との戦いまでは拒否し続けた。
 それ以降もしほとしては拒否するつもりだった。
 ところが、しほもその考えを改めてしまう出来事が起きる。
 みほとまほのいる、大洗女子学園が一回戦目のサンダース大学附属高校相手に勝利を収めたのである。
 優勝候補の一つとして見られている名門校相手に無名校が勝利を収めたこの結果は、各校に衝撃をもたらした。
 そして、そのことに一番の衝撃を受けたのは、エリカ達黒森峰の生徒であった。
 “あの西住姉妹が無名校を勝利に導いた。”
 “西住姉妹は私達に復讐するつもりだ。”
 “再び黒森峰に敗北を与えるつもりだ。”
 そのような噂が、黒森峰でまことしやかにささやかれるようになった。すると、隊全体が一種の不安に包まれ、より激しい訓練を求めるようになったのだ。そのことは、エリカとしほの訓練にも言えることであった。
16/11/20(日)01:33:56 No.391844690
「見てくださいしほさん! 元隊長と元副隊長は、無名校であのサンダースに勝ちました! これは由々しき事態です! 我々は万全を期して迎え撃つべきです!」
 エリカも、そしてエリカの部下達もエリカの能力向上になるならとエリカの訓練の質の向上を訴えた。
 エリカ一人の声ならまだしも、隊全体の声ならばしほも無視するわけにはいかなかった。
 あくまで学生の自主性を尊重しているという建前上、それを断ることは外部の意見が強すぎる状況であると認めることになるからである。
 こうして、しほはエリカの訓練の内容をより厳しいものにした。
 しほは訓練の内容が上がるだけなら問題ないと思った。
 されど、エリカは自らの時間をしほに黙って削っていた。今やしほの立てたスケジュールは完全に破られている状況になっていた。
 エリカは再び寝食を忘れ戦車道に没頭するようになった。
 普段の勉強の時間も戦車道に費やすようになったため、以前よりもひどい状況と言えるだろう。
 それは黒森峰が二回戦の継続高校に勝利し、そして大洗が同じく二回戦でアンツィオ高校に勝利を収めるとより激しくなった。
16/11/20(日)01:34:11 No.391844731
「次の大洗の相手はプラウダ……普通に考えたら大洗がプラウダに勝つなんてことはない。でも、大洗にはあの姉妹がいる。念には念を入れないと……!」
 エリカはより熱を入れて戦車道に入れ込んだ。
 とは言え、二回戦を終えた後になると、さすがのしほもエリカの異変に気がつくようになっていた。
「エリカ……もしかして、私の作ったスケジュールを破っている……なんてことはないわよね」
 しほはエリカを問い詰める。
「いいえ、大丈夫です。私はちゃんとしたペースで勉強と休息を取っています。どうか安心して下さい」
 エリカはまるで本当のことのように嘘を言う。
 しほとしてはかなり疑い深かったが、エリカの私生活に踏み込むわけにもいかないため、エリカの言葉を信じるしかなかった。
 エリカの歪な努力。
 それは決勝の直前まで続くかに思えた。
 だが、それは思わぬ形で止まることになる。
16/11/20(日)01:34:32 No.391844785
 プルルルルル……。
 エリカの携帯が鳴り響く。
 それは、放課後のしほとの訓練中。聖グロリアーナとの戦いに勝利した直後のことであった。
「はい。もしもし逸見です。……えっ? ちょ、ちょっと待って下さい!? 本当ですか!? ……はい、はい。分かりました。では、後ほど……」
 エリカは暗い面持ちで電話を切る。
 しほはそのエリカの様子からただ事ではない事態が起きたのを察知し、恐る恐るエリカに聞いてみた。
「……どうしたの、エリカ?」
「……家族が、事故にあって重体と……今電話で……」
16/11/20(日)01:34:54 No.391844841
   ◇◆◇◆◇


 しほは熊本にある大きな総合病院の待合室で座っていた。
 エリカから事情を聞き、すぐさま西住の家のヘリを用意させ病院まで飛んでいったのだ。幸いにも黒森峰学園艦は熊本に近い距離にいた。
 そして、今はエリカが医者から話を聞いているのを待っている状態である。
「…………」
 待合室には殆ど人影はない。
 と言うのも、今は夜遅くで本来ならばもう普通の患者は訪れない時間帯だからである。
 もうどれだけ待っただろうか。しほは嫌に時間が長く感じた。
 もうそろそろ時計は十時半に差し掛かろうとしていた。

 コツ、コツ、コツ、コツ。

 と、そこで、硬いリノリウムの床を叩く音が聞こえた。
16/11/20(日)01:35:14 No.391844913
 しほが顔を向けると、そこには地面を向きながらゆっくりとしほの方に歩いていくるエリカの姿があった。
「エリカ!」
 しほはエリカに駆け寄る。
 エリカは、しほがエリカの目の前に来てやっとしほのことに気がついたのか、ゆっくりと顔を上げた。
「……しほさん」
「……その、どうたったの。ご家族の容態は」
「……一応、峠は越したと。ですが、しばらくは面会謝絶のようです」
「そう……」
 しほは喜んでいいのか分からなかった。
 命が助かったのは喜ばしいことだが、面会謝絶ということはまだ予断を許さない状況でもあるということである。
 親しいものがこれほどまでの大怪我に見舞われたことがないため、しほは何と言葉を掛ければいいのか分からなかった。
「……私のせいなんです」
 しほが言葉を掛けあぐねていると、エリカがポツリとしほに向かって漏らした。
「それは、一体どういう……」
16/11/20(日)01:35:28 No.391844959
きたのか…
16/11/20(日)01:35:40 No.391844993
 しほはエリカの言っている意味が分からず聞き直す。
 エリカはしほに視線を向けないまま喋り始めた。
「私、ずっと家族とは会っていなかったんです。家族は私が戦車道をやることに反対していて……。それを振りきった形で家を飛び出して行って……。でも、この前電話があったんです。一緒に旅行に行かないかと。もし私が一緒に来てくれるなら、皆で海にでも行こうと。けれど、私はそれを断った。大切な大会が違いからと。内心では大会を理由に家族から逃げたかっただけなのに。そして、なら仕方ないと家族は山に行ったんです。そこで、家族は突然の崖崩れにあって、それで……!」
 エリカはそこまで言うと、両手で顔を抑えて泣きだした。
「私が、私が一緒に行っていれば……! お母様もお父様もお姉様も、みんな私のことを心配してくれていたのに、それなのに私は……!」
「エリカ……!」
16/11/20(日)01:35:58 No.391845038
 しほは泣くエリカを強く抱きしめた。
 エリカは両手を顔から外し、驚いた顔をしほの顔の横で見せる。
「あなたのせいなんかじゃないわ! あなたは何も悪くない! 誰かがそう言ったとしても、私がそれを否定する! 私だけは、あなたの味方よ……!」
 しほはなぜこんなにエリカに親身になってしまうのか分からなかった。だが、今のエリカを放っておけない。そんな気がしたのだ。
「しほさん……う、うわああああああああああああっ!」
 エリカは大声で泣いた。
 彼女の泣き声は、人の少ない病院の待合室に大きく響き渡った。
16/11/20(日)01:36:04 No.391845060
新たなるダークサイドでしほエリとか最高だな…
16/11/20(日)01:36:26 No.391845119
   ◇◆◇◆◇


 エリカはベッドの中で考える。
 家族が離れ離れになる辛さを。
 会いたくても会えない苦しみを。
 エリカはそれを肌身で味わった。
 その身で、もう二度と会えないかもしれないという苦痛を知った。
「……じゃあ、隊長と、副隊長も……?」
 そこでエリカが考えたのは、西住姉妹のことだった。
 彼女らの母であるしほは、エリカのことをまるで自分の娘のように心配してくれた。それはとても嬉しいことだった。
 だがしほは、本当の自分の娘にそうしてあげたことはあったのだろうか? ずっと家のしきたりで、できなかったのではないか?
 それはとても辛いことだっただろう。家族として接したくても接しられないことはとても苦しかったのだろう。しほがあのときした辛い表情は、きっとそんな感情の現れだったのだろう。
16/11/20(日)01:37:10 No.391845251
 だが、まほ達はどうだったのだろうか? エリカは初めてまほ達の気持ちについて考え始めた。
 まほもみほも、親からの親らしい愛をなかなか受けられずにいて辛い気持ちでいたのではないだろうか。そうしていくうちに、姉妹同士の結びつきが強くなっていったのではないだろうか?
 そうならば、黒森峰を去ったのも、今では納得できなくもないと、エリカは思った。
 家族を失いかけたのをきっかけに、今初めてと言っていいほどにエリカの思考に落ち着いた考えが現れていた。
「隊長も、副隊長も辛かったのかな……」
 自分の気持ちを優先して、親の元から離れていくというのは自分と重なる部分もある。だが、その重みはまったく違う。
 エリカはそんな西住姉妹のことについて初めて穏やかな心境で考えながら、夜を過ごした。
 大会の決勝戦で大洗と当たることが分かったのは、その翌日のことだった。
16/11/20(日)01:37:46 No.391845368
   ◇◆◇◆◇


 とうとうその日がやって来た。
 第六十三回戦車道全国高校生大会決勝戦。
 実況中継用の何台ものカメラがエリカ達を映し出す。
 エリカ達はカメラに映されながら、互いに審判を間に挟んで例をした。
「「よろしくお願いします!」」
 今のエリカはとても健やかな気持ちだった。過度な訓練はあまり変わらなかったが、その心境が大きく変化していた。
 現に、今西住姉妹を目の前にしているというのに、あのドロドロと流れていたはずのマグマの熱は一切なかった。
「エリカ……きっとお前は私達を恨んでいるだろう。だが、私達は負けるわけにはいかないんだ。大洗のため、大切な友人のために……だから、全力でいかせてもらう」
 挨拶の後、まほがエリカに声をかけてきた。
 その目には、確固たる意思が秘められていた。
 家族の事故に遭う前のエリカなら、口から憎しみの言葉が漏れていただろう。
16/11/20(日)01:38:03 No.391845409
 だが、今のエリカは、
「ええ、もちろんです。本当の西住流を見せてあげましょう」
 と、不敵な笑みで言うだけだった。
 まほはそのエリカに驚いたような表情で見ていた。
 当然だろう。戦車喫茶であれだけの悪態をついたエリカである。
 それが、まるで別人のように爽やかにそう言ったのだから。
 実質、エリカの心はあの日とは別人のようになっていた。今のエリカは、不思議と落ち着いていた。それでも、これまで張り巡らせていた緊張の糸はずっと張り続けているのだが。
 エリカは来賓席に目を向けた。そこにいる、しほへと。
 しほは厳しい表情で演習場全体を見ている。西住の家元としての、しほの姿だった。
 エリカはそんなしほを一瞥した後、すぐさま自分の搭乗する戦車へと駆けていった。
16/11/20(日)01:38:23 No.391845457
 こうして、最後の決勝戦が始まった。
 決勝戦は激戦だった。
 最初は黒森峰が大洗のフラッグ車に奇襲を掛けるも、他の車両が盾となりその奇襲を失敗させた。
 その後、大洗は高所を取り、黒森峰を翻弄。大洗の挑発に乗り撃破される車両もあった。
 さらに、みほが川を渡っている最中に水没しかけた戦車を助けると一幕があった。
 その光景を見たエリカは、
「……バカね」
 と、呆れながらもどこか満足気に呟いた。
 一緒に戦っていた同学年の赤星小梅――みほに去年助けられた少女の車両からも嬉しそうな声が聞こえてきた。
 そして、戦いは市街戦へと移る。
 数と質に優っているはずの黒森峰は、大洗の奇襲、奇策により着実に数を減らされ、ついには虎の子として投入したマウスすら撃破されることとなった。
 それほどまでに黒森峰は追い詰められた。
 以前のエリカなら、癇癪を起こし怒りに震えていただろう。
16/11/20(日)01:38:49 No.391845527
「ふふっ……!」
 だが、違った。今のエリカは、思わず笑みが溢れていた。
 あの西住姉妹と、ここまでの戦いができている。その高揚感がエリカを包んでいた。
 そしていよいよ戦いは最終局面へと移る。
 閉所にエリカのフラッグ車、まほ車、みほのフラッグ車の三台が閉じ込められたのだ。
 狭い通路を大洗のポルシェティーガーが封鎖したのが原因だった。
 西住姉妹を相手にした一対二の絶体絶命な状況。
 だが、やはりエリカは笑っていた。
「いきますよ、まほさん、みほ……!」
 いつしかエリカは西住姉妹を名前で呼び、決戦に突入した。
 阿吽の呼吸で動く西住姉妹の戦車。その戦車についていくだけでエリカは精一杯だった。
 だが、それでも楽しかった。
 それが楽しかった。
 そしてその戦いの刹那にエリカは僅かな隙を見出した。
「そこだああああああああっ! 撃てええええええええええええっ!」
16/11/20(日)01:39:06 No.391845576
 エリカの声と共にエリカ車が火を吹く。
 その瞬間、みほ車もまた砲撃をした。
 その一瞬の出来事の後の結果はこうだった。
 エリカフラッグ車、撃破。まほ車、撃破。みほフラッグ車、生存。
 大洗女子学園の勝利だった。
16/11/20(日)01:39:40 No.391845701
   ◇◆◇◆◇


 ――終わったんだな。すべてが。

 自陣に戻ったエリカは、夕日の中一人勝利に喜ぶ大洗を見ながらそう思った。
 西住姉妹に抱いた憎しみも、あの訓練の日々も、しほとの生活も、すべてが終わりを告げたのだ。
 それは、今のエリカのすべてが終わったということだった。
「エリカっ!」
 立ち尽くすエリカの元に駆けて来る姿があった。
 しほだった。
「よく、努力しましたね……」
 しほはエリカを抱きしめようとする。
 だがエリカは、その腕をそっと押しとどめた。
16/11/20(日)01:40:06 No.391845776
「エリカ……?」
「しほさん。今あなたが抱いてあげるべきは、私ではないでしょう?」
 そう言って、エリカは大洗の方に視線を向ける。
 しほはエリカの意図に気づき、困ったような顔を見せた。
「しかし……」
「いいから、行ってあげて下さい。今行かないでいつ行くんですか。家族が抱いてあげるべきときは今なんです。ちゃんと会えるときに合わないと、後で後悔することになるんですよ……」
 エリカは目に涙を浮かべながらも、笑ってしほに言った。
 しほはエリカのその姿を見ると、ゆっくりと頭を縦に振って、大洗のほうに歩いて行った。
「……お母様!?」
「お母さん……!?」
 まほもみほも、突然現れたしほに驚いているようだった。
 しほは少し言葉に困ったように目を左右に泳がせながらも、最後には深呼吸して二人を優しい眼で見つけ、口を開いた。
16/11/20(日)01:40:57 No.391845935
「まほ、みほ。見事でした。あれがあなた達の戦車道なのですね。あなた達は、あなた達の戦車道を見つけたのですね……おめでとう、まほ、みほ」
「お母様……お母様っ!」
「お母さぁんっ……!」
 その言葉に感極まったのか、まほとみほはしほの胸に抱きついた。
「お母様からそんな言葉が貰えるだなんて、思わなかったです……! ありがとうございます……!」
「私、お母さんがエリカさんに取られちゃったのかと思ってた……! でも、やっぱりお母さんは私達のお母さんだったんだね……!」
「まほ、みほ……!」
 まほとみほは泣いていた。
 その姿を見て、しほもまた目を潤ませた。

 ――ああ、私はこれが見たかったのかもしれない。

 エリカはお互いの絆を取り戻した西住家を見ながら、そう思った。
 しほの笑顔、まほとみほの嬉し涙。
 それは、きっと憎しみのままに勝利したときに感じるものよりも尊いものなのだろう。
16/11/20(日)01:41:17 No.391846045
 今のエリカには、それが分かった。
 色々なことを考え抜き、そして西住姉妹と戦って戦車道の喜びを取り戻したエリカの正直な感想だった。
「……あれ?」
 エリカの視界が、だんだんと霞み始めた。エリカはその感覚に憶えがあった。
 ――なるほど、これは、倒れる前の感覚だ。以前にも、あったなぁ、これ。
 まるで他人事のように考えながらも、エリカの意識は白く溶けていく。
 そこに苦痛はなく、光で溢れていた。
16/11/20(日)01:41:34 No.391846101
「二人にちゃんと紹介したい人がいるんです。私は彼女のおかげで私が母としての私を選んでいたことを知りました」
「……それは、もしかして」
「ええ、そうです。あなた達はよく知っているでしょうが、ちゃんと私の恩人として紹介したいんです。エリカ! こっちに来て……エリカ? エリカ!?」
16/11/20(日)01:41:51 No.391846145
   ◇◆◇◆◇


 西住流の本家たる西住屋敷。
 周りの住居よりもひときわ大きく、庭には豊かな木々が茂っているその屋敷の庭に、一人の着物の女性が立っていた。
 その女性は庭の中でも一番太い樹の下に立ち、そよ風を浴びている。
「エリカ」
 名前を呼ばれ、その女性――エリカは振り返る。
 銀髪をなびかせ、少々疲れたような顔を振り返って名前を呼んだ女性に見せた。
「しほさん」
 エリカの名を呼んだ女性――しほにエリカは応える。
 そして、樹の下からしほの下にゆっくりと歩いて行った。
16/11/20(日)01:42:22 No.391846224
「どうしたんですか?」
「いえ、あなたが庭で一人で立っているから、気になって。体は大丈夫なの?」
「ええ、体は大分快方に向かっているとお医者様が言ってくれました。この分なら、大洗のエキシビションマッチが終わる頃にはまた戦車に乗れると思います」
「そう、良かった」
 エリカとしほは笑いあった。
 エリカは今、西住家に世話になっていた。
 あの大会の直後、倒れたエリカは病院に運ばれるも、命に別状はないと判断された。どうやら、あまりの無茶がすべての緊張の糸が切れたことによって一気に襲ってきたらしい。
 エリカはしほに大いに叱られた。そしてその後、よければ西住本家で療養しないかという誘いを受けた。エリカはその誘いを飲んだ。
 西住家からなら、家族のいる病院にも見舞いにいけるという判断からでもあった。しかしそれよりもなにより、しほと一緒にいたいという気持ちがそこにはあった。
「そういえば、ご家族のほうは?」
「はい。家族ももうすっかり回復して、見舞いに行く度に元気な声を聞かせてくれますよ。さすがにまだ動き回れるというわけではありませんが……」
16/11/20(日)01:42:42 No.391846275
「早く治るといいわね。あなたと一緒に」
「ありがとうございます。……それもこれも全部、しほさんのおかげです」
 エリカはしほに頭を下げた。
 しほは急なことに驚く。
「ちょ、ちょっとどうしたのかしら?」
「いえ、改めてちゃんと言っておこうと思って。……思えば、私は茨の穴の中にいたんです。堕ちるにも登るにも苦痛な憎しみという茨の穴の中に。でも、そこから助けだしてくれたのはあなただった。あなたが、私の手を取ってそこから助けだしてくれた」
「それは……こっちが言いたいことだわ」
 しほはエリカの言葉にゆっくりと首を振って言った。
「しほさんが?」
「ええ。私はずっとあなたの言う茨の穴の底にいたの。西住という家のしがらみという茨の底に。でもあなたが希望の光を投げかけてくれた。家族の気持ちというものを手を差し伸べて見せてくれた。感謝したいのは、私の方なのよ」
16/12/05(月)23:39:16 No.391843954
1479572997420.jpg-(32419 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/11/20(日)01:43:24 No.391846398
「そんな、私は……」
 エリカとしほはなんだか妙な気まずさ――と言っても何故だか心地いいもの――に囚われて言葉が止まる。
 二人がしばらくもじもじとしていると、そんな二人の横からぬっと現れた影があった。
 菊代だった。
「奥様。エリカ様。冷たいお茶でもいかがでしょうか? お茶うけとして羊羹も用意してありますよ」
「え、ええ! それはいいわね菊代! さあ飲みましょうエリカ!」
「は、はい! そうですね!」
 二人は慌てながらも縁側に座り、煌めく太陽の下お茶を飲み始めた。
「ふふふ……」
「ふふっ……」
16/11/20(日)01:43:41 No.391846444
 エリカとしほは縁側で歓談する。
 その姿は、まるで本当の親子のようだった。
 いや、今この瞬間において、二人は本当の親子なのだ。
 茨の穴を抜けだした、確かな絆に結ばれた親子の姿が、そこにあった。


  おわり
[AD]
16/11/20(日)01:46:19 No.391846920
読んでいただきありがとうございました
su1646925.txt
過去作もよかったら
・失明エリカなどシリーズもの
su1646929.txt
・その他短篇集
su1646930.txt
16/11/20(日)01:50:10 No.391847583
しほエリいい…
[AD]
16/11/20(日)01:51:10 No.391847755
いい…
16/11/20(日)01:53:24 No.391848113
いいよね…
16/11/20(日)01:54:40 No.391848377
エリカさんが生きてる…
16/11/20(日)01:55:39 No.391848561
闇かと思わせて光でこれは…ありがたい
西住親子の雪解けいい…
16/11/20(日)01:55:49 No.391848581
よかった死んでなかった・・・
16/11/20(日)01:56:58 No.391848749
ダークサイド一直線かと思ったけど良かった…ハッピーエンドだ
16/11/20(日)01:57:01 No.391848751
重苦しいけど読み応えあったわ…
16/11/20(日)02:06:54 No.391850114
いいんじゃねぇかなァ…
16/11/20(日)02:15:41 No.391851272
しほエリありがたい…
16/11/20(日)02:17:16 No.391851476
ほんとエリカ好きだな!
16/11/20(日)02:23:41 No.391852245
どこを縦読みすると不穏な事実がわかるんだ?
16/11/20(日)02:37:00 No.391853698
負けはしたもののお姉ちゃん撃破って大殊勲だよね
16/12/05(月)23:39:16 No.391843954
1479572997420.jpg-(32419 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!


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