SS「夢でも逢えたら」紅葉の舞う林道を、私は大股で歩いていた。赤に - いもげばこ−二次元裏img@ふたば過去ログ保管庫


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16/11/22(火)01:02:36 No.392244894 del
SS「夢でも逢えたら」

 紅葉の舞う林道を、私は大股で歩いていた。
 赤に黄、茶に橙、丁子弁柄浅葱肉桂蘇芳山吹、役目を終えて色づいた葉もいまだ青みを残した葉もとりまぜて、ともすれば先を見通せないほどに降り注ぎ、息が詰まりそうだ。
 腕を大きく振り腿を高く上げ、一刻も早くこの場所を後にしたい。せめて広い場所に出て視覚と呼吸器を人心地つかせてやりたかった。
 けれども、ゆるやかに傾斜のついた山道らしき足もとは、進むごとに険しさが募り、心なしか左右の幅も狭まってきている。
「道を間違えたんじゃないかな」
 隣を歩いていたミカがそんなことをいいだした。私もちょうどそんな気がしだしていたから、甚だおもしろくなかった。
「引き返してもいいと思うよ、まほさん」
 まったく藪蛇もいいところだ。おかげでなにがなんでも、ふり返ることさえ願い下げになった。
 見れば腕や肩に落ち葉が積もりつつある。もっと急がないと、押しつぶされてしまう。
 私はいい知れぬ焦燥感に胸をふさがれつつ、とにかく歩を進めた。
 気がつけば傍らにミカの姿はなく、なにやら呼びかける声が遥か後方からかすかに聞こえてきたように思えた。
16/12/04(日)23:22:07 No.392244894
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/11/22(火)01:02:59 No.392244955
 目を覚ますとまだあたりは薄暗かった。
 よほど夢見が悪かったのだろう、内容はまったく思い出せないが、アラームをセットしている時間よりずいぶん早く起きてしまったようだ。
 胸が苦しく体が重い。もともと低血圧気味なところはあるが、これは長年つきあってきた体の癖とは明らかに種類を異にしていた。
 どうやら風邪をもらってしまったようだ。
 口のなかが酸っぱく、喉がいがらっぽい。咳きこむことがないのがせめてもの幸いだったが、自らの体の具合をひとつずつ確認するうち、ようやく意識もはっきりとしてきて、それと同時に全身を覆う寒けにも気づかないわけにはいかなかった。それもそのはずで、すごい盗汗だった。
 髪は、特に癖っ毛のはねたあたりにしずくがたまり、わずかな身じろぎでぽたりぽたりとしたたった。体は上半身といわず下半身といわずしとどに濡れて、寝間着の内側が湿っている感覚が気持ちわるかった。
 重い体を引き上げ、クローゼットをかきまわしてどうにか着替えを探り当て、服を脱ぎかけたところでふとわずかに開いた戸の隙間から明かりが洩れ入っているのが目に留まった。
16/11/22(火)01:03:15 No.392245000
 たしかに消したはずだったがと、なかば朦朧とする頭で戸を引くと、さっと白色の電灯に迎えられ、そして、そこではミカがかいがいしく体を動かしていた。
「おはよう、まほさん、少し台所を借りているよ」
 ズボンにトレーナーのラフな姿で、上にはエプロンをかけている。髪は後ろでひとつに束ねているため、自然に前髪も分けられて、いつもより額が広く見えている。
 なんだか様になっているように思えた。
「ああ……」
 だからだろうか、私はまったくそれを自然に受け容れてしまっていた。
「ほらほら、体調がよくないんだから、ぼうっとしていてはいけないよ。まだ早いから、もう少し横になっていたらいいさ」
「そうだな」
 いわれるままに踵を返して寝室にもどったところで、私は上着を握りしめたまま、肌をさらしていたことに思い至った。
16/12/04(日)23:22:07 No.392244894
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/11/22(火)01:03:31 No.392245050
 次に起きたときには、とうに日はのぼりきっていた。
 体調はまだ思わしくないが、睡眠をとったおかげで気分はややましになっていた。
 改めてキッチンに向かうと、やはりミカはいて、夜明け前と同じ装いでテーブルに向かい新聞を読んでいた。
 なにもいわず、私が現れたのを見るや、まず湯冷ましを差し出してくれて、そして体温計を手渡してきた。
 計ってみれば七度の半ばあたりを指していたが、もともと平熱が低いので、これでも十分に病身といえた。
「お粥を作ったけど食べられるかい?」
「……うん」
 ミカはもう一室の、テレビなどを置いてある応接間に使っている部屋にちゃぶ台を持ち出して、朝食を準備してくれた。カーペット敷きのこちらなら、フローリングのキッチンよりは冷えが上ってこない。
「それと、はいこれ。背中を冷やしちゃいけないよ」
 どてらを後ろから着せてくれた。冬場に普段使っているものだ。
 用意してくれていたのは、粥と味噌汁、それにつけあわせの梅干しと香の物だった。
「急ぎだったから、あまりたいしたものじゃないけど」
 そうしてミカは再び腰を上げた。
16/11/22(火)01:03:47 No.392245099
「換気をしてくる。部屋に入っていいかな?」
「ああ、すまない」
 いつもと違い、断って私の部屋に出入りするミカを見ると、改めて自分が平素とは異なる状態にあると知らされる。
 味噌汁は小松菜と豆腐、香の物は大根と白菜の浅漬けで、どちらも味付けを薄くしてくれていた。
「やさしい味だな」
「お口にあえば何よりさ」
「体にこたえなくて助かる」
 ミカが差し出してくれた湯飲みにはほうじ茶が注がれていた。
「なあ、ミカ、どうして私の体調が悪いとわかったんだ」
「それは少し買いかぶり過ぎだよ。私はいつも通り風の向くままにお邪魔しただけださ。そうしたら、寝床でずいぶんと苦しそうにまほさんがうなされていたんだ」
「わざわざほうじ茶やら小松菜を持ってか」
「たまたま持ってね」
 目を細めて微笑むミカを見ていると、それ以上追求する気持ちにもならなくなる。
 既に昼近くになっていたが、学校に病欠の連絡を入れ、もう一度横になることにした。
16/12/04(日)23:22:07 No.392244894
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
16/11/22(火)01:04:03 No.392245135
 私は熊本へ向かう車中にあった。
 車窓には阿蘇の山肌が壁のように立ちふさがり、わずかにのぞく空にさえ噴煙がもうもうと立ちこめていた。
「阿蘇山は本当に磨き砂の中かな」
 頭上でミカがそんなことをしゃべった。
 どういういきさつかはもう覚えがなかったが、ミカが帽子の姿に身をやつしてずいぶんと時間が経っていた。
 気の毒でもあり、原因が私にあったような気もするので、できるだけ頭に乗せてやっていたが、以前にも増してわけのわからないことをしゃべるのに辟易していた。
「だれも田舎隠者でないのさ」
 少しはわかる言葉なのが一層憎たらしく、私はとうとう腹にすえかねて、一度こらしめてやろうと頭上の荷台に放り込んでやった。座っていると姿も見えず声も聞こえなくて、とても清々した。
 それからはすっかりよい心持ちで熊本まで過ごせた。
 しかし駅に到着して荷台からミカを下ろそうとして、私は驚愕した。
 荷台はミカそっくりの帽子で溢れていたのだ。なにやらミカも話しかけて、居所を知らせようとしてくれるが、折から鳴りだした発車を知らせるベルでかき消されてしまう。
 私はどうしていいかわからず棒立ちになっていた。
16/11/22(火)01:04:19 No.392245180
 悪夢から覚めると、胸が激しく高鳴っていた。
 夢は急速に形を失い、記憶のなかには断片さえ残っていなかったが、不快だったのだけはまちがいがないらしかった。
 全身を粘つく汗が取り巻いて、薄い膜が張り付いているようだった。
 着替えるついでに洗面所で思いきりうがいをしたら、やや気分も晴れた。熱も少しは下がったらしい。
 ふと風呂場をうかがえば、どうも湯が張ってあるようだった。窓の外ではもう日も水平線の向こうに沈もうとしている。
 不意に自分の体が汗臭いように思え、たまらず湯船に入ることにした。
 幸い湯はややぬるめで、じっくりと肩まで浸かっていられた。
「まほさん、お風呂かい」
 唐突に脱衣所からミカが声をかけてきた。磨りガラス越しのシルエットは、いつにも増して艶めかしく映り、衣服をつけていないかのような錯覚をおこさせた。
「あ、ああ」
「着替えを置いておくよ。下着を持ってきていなかったようだから」
「ああ、そうか」
「それじゃあ、ごゆっくり。のぼせないようにね」
「ああ」
 硝子戸の向こうの気配が消えた。それとともに、私は自分が胸と内股を隠すように両手をかざしていることに気づいた。
16/11/22(火)01:04:34 No.392245218
 風呂から出てみれば、ミカは干しっぱなしにしていた洗濯物を取り込んで、たたんでくれていた。
 私は隣に腰を下ろすと、そのまま背をあずけた。
 温かい。湯上りにもかかわらず、衣服越しに伝わるミカの体温はしみ渡り、せっせと動かす手振りの揺れになって伝わってくるのも心地よかった。
「なあ、ミカ、お前はいつまでいるつもりなんだ」
「まほさんの熱がさめるまでさ」
「そういう意味じゃない」
「そうかな」
 ミカは口のなかで小さくハミングをくり返していた。それは耳にやさしく、心を落ち着かせてくれた。
「お前はだれとでも家族になれる人間だ。ひと当たりがよく、どこにでも入りこんでいける。別にここじゃなくても居場所をみつけることくらいかんたんだろう」
 いっているうちに、また胸が苦しくなってきた。
「そうかな」
「そうだ。実際、お前は、うちの実家にも入り込んで、両親や働いてくれているひと達からの覚えも悪くないじゃないか」
 母とは戦車道を通じて面識はあったとは思うが、ミカはいつの間にかそれ以上にわが家に馴染んでしまっていた。
16/11/22(火)01:04:50 No.392245252
「だから、私は時々、不安になるんだ。いつものようにふいと去っていったあと、そのまま二度と目の前に姿を現さなくなるんじゃないかって」
「戦車道を続けている限り、まほさんと顔を合わさないなんてことはないと思うけど」
「そういう意味じゃない」
「そうだね」
 似たような会話のくり返し。いつもなら話の進まないことに苛立ちを覚えもするけれども、今日に限ってはなんだかそれで安心できた。
「まほさんはひとつ思い違いをしているよ」
 洗濯物をたたみ終えたミカは、背を後ろに傾けてきた。合わせた背中と背中に掛かる力が拮抗し、ちょうどまんなかでバランスがとれる形になった。
「思い違い?」
「ああ。私のことを評価してくれるのは嬉しいけど、少々過大だね」
「そうかな?」
「そうさ」
 つい今しがた耳にしたばかりの疑問が私の口からもれた。
「私はそれほど愛想のいい性格ではないもの。自分にできる限りは努めさせてもらってはいるけどね」
「でも……」
 現に私の前で、ミカは次から次へと、自身の存在を認めさせていった。両親も家のものも、みほも、エリカでさえ。
16/11/22(火)01:05:06 No.392245300
「それはね、貴女が西住まほさんだからだよ」
 きゅっと胸が締めつけられた気がした。先ほどまでの押さえつけられるような感覚とはまた異なり、胸の奥を握りしめられたようだった。
「ごめん。病気のときにする話題でもなかったね」
「いや、いい」
 ミカの体が動きそうな気配を察して、私は機先を制した。すると、深いため息をつく音がして、背中を通じて肺の収縮と膨張が感じられた。寒けとは違うぞくぞくとしたものが上ってくる。
「まほさん、あなたは自身についての評価が過少に過ぎる。西住まほというひとは、どうしたってひとを惹きつけてやまないひとなんだよ」
「それは西住流の名が……」
「違う」
 ついぞ聞いたことのない、強いミカの断言だった。
「西住流なんて些細な話だよ。仮にそれが島田であろうとも、まったく戦車道にかかわらない家であろうとも、まほさんはまほさんである限りひとを惹きつけるのさ。あなたはそういう体質をしているんだよ。いってみれば、だれをも家族にしてしまうひとなのさ。西住まほさんというひとは」
16/11/22(火)01:05:22 No.392245348
 私はできるかぎり体をひねらないようにして、右手をミカの額のあたりにまわした。
「ミカ、熱でもあるんじゃないか」
「ふふふ、まほさんなら、そういうと思ったよ。こういうのは自分ではわからないものなのかもしれないね」
 ミカは額に当てられた私の手を両手で包み込んだ。温かくてみずみずしく、そしてやわらかな手だった。
「けど、それはそれでいいんだろうね。まほさんは、まほさんなのだから」
 やがてそっと手が解放された。
「だから、ひとつだけ約束できる。あなたの熱が冷めるまで、私の方から姿をくらましたりはしない」
「わかった」
 私はミカの体温の移った右の手を、体全体で包み込んでうなずいた。
16/11/22(火)01:05:38 No.392245390
 私は夢を見ていた。
 夢のなかで、私は風邪を患い寝込んでいた。
 重篤というわけではないが、なにかを行うにも差し障りがある、普通に伏せっていなければならない状態だ。
 けれども、だれが看病してくれるわけでもない学園艦のなかでは、自ら家事まわりを片づけなければ生活が成り立たない。
 私は重い体を引きずりゴミ出しをして、食事の用意を行い、洗濯物を取り込んで、悪化させないように努めるので精一杯だった。
 後輩から電話があり、見舞いの申し出をしてくれたが、さすがに断った。既に三年生として現役を退き、部外者となった身で甘えるわけにはいかない。それに、そこまで深刻な体調ではない。
 だが深刻でないからこそ、この症状がいつまで続くものかと考えると不安が胸を締めつけた。
 洗い物を片づけていると、背筋に悪寒が走った。額に手をやると、自分でも驚くほど熱くなっていた。
 まだ汚れもすべて取り切れていない茶碗をそのままに、ほとんど倒れ込むようにして、敷きっぱなしで湿気がこもった布団に横たわった。
 起きたときにはせめて少しでも体調が回復しているように。祈るように私は目を閉じた。
16/11/22(火)01:05:54 No.392245434
 目覚ましの電子音が鳴る気配を感じ、私は手を伸ばした。
 最初の一音が発せられるのとほぼ時を同じくして、機能をオフにする。そのまましばらく布団のなかで頭が起きるのを待つ。
 どうも昨日からろくでもない夢ばかりを見ていた気がする。残滓すらないが、そんな気配だ。しかし気分は悪くない。一日ぐっすり休んだ甲斐があったらしく、風邪も退散してしまったようだ。
 ベッドから起き上がった体も軽い。私は足取りを確かめながら台所へ向かい、蛇口をひねって水をいっぱい汲み喉を潤す。
 一応念のため体温計を取り出して口にくわえる。
 計測する間、ぐるりと室内を見渡す。黒森峰に通って三年間、住み慣れた、私の、私だけの部屋だった。
 カーテン越しに朝日の差しこむ薄明るい室内を、私はひとり立ちつくしていると、やがて計測が完了した。
 私はその数値を確認すると、大股で玄関に向かった。
16/11/22(火)01:06:12 No.392245474
「嘘つき」
 だれもいない、電灯さえつけられていない、靴がずらりと並べられた暗がりに向かって私は言葉を投げつけた。
「お前は熱がさめるまではいるといったろう。見ろ! 六度八分だ。私の平熱は五度八分だから、まだ十分に微熱の範疇だ」
 体温計の目盛りが見えるように前に突き出す。
 しばらくの間はなんの反応もなかった。けれども、やがて根負けしたかのように玄関扉がゆっくりと開いて、
「六度五分を指しているように見えるけど」
 ミカが顔を出した。
「お前に見せる際に振ったから下がったんだ」
 しばらくはふたりともなにもいわず向き合っていた。しかし、それでは話が進まない。私はどうしてもいっておかねば気が済まないことがあった。
「ありがとう」
 ミカはそれを聞くときょとんとした顔をしていたが、
「また来るよ」
 静かに笑ってそう約束した。
「待ってる」
 病後の清々しさも手伝い、私も気持ち良い笑みを浮かべることができた。
16/11/22(火)01:09:01 No.392245875
いい…
16/11/22(火)01:10:30 No.392246106
現在制作されてらっしゃいます合同誌「ONE DAY合同」も視野に入れて書いていたものです
冒頭に「ある日のことだった」を挿入してもらえれば元の形になります
が長くなり過ぎたのやもろもろ理由もあって別の作品を提出することにしました
でも折角書いたのだしということでこちらで
お目汚し失礼
16/11/22(火)01:13:19 No.392246515
来たのか!
16/11/22(火)01:17:54 No.392247133
ワガママ言うお姉ちゃんいい…
16/11/22(火)01:19:36 No.392247339
風邪引きに独りはつらいよね
16/11/22(火)01:22:18 No.392247639
きたのか!
16/11/22(火)01:23:57 No.392247847
いい……
16/11/22(火)01:36:49 No.392249556
読みごたえたっぷりで嬉しい…
16/11/22(火)01:38:03 No.392249760
オチのちょっと前でちょっとびっくりしたよ…
よかった…挨拶もせずに去ることなんてなかったんだ…
16/11/22(火)01:42:58 No.392250491
2人のこのもどかしいけど微妙な距離感がすごくいい…
16/11/22(火)02:08:11 No.392253811
熱あると凄い夢見ることあるよね
天井に小人が鉄道作ってるのが見えた時は完全に夢だってわかったけど起きられなくて怖かったな
16/12/04(日)23:22:07 No.392244894
1479744156588.jpg-(28661 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!


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