サンダース大附属のいくつかある調理実習室のうちの一つは、来るべき - いもげばこ−二次元裏img@ふたば過去ログ保管庫


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17/02/13(月)02:53:22 No.408697212 del
 サンダース大附属のいくつかある調理実習室のうちの一つは、来るべき決戦の日を前に、おおいに賑わっていた。
 わたしもその一人で、いつもの星の髪留めで結わえた赤茶けた癖っ毛を、三角巾に押し込んでいる。
「あぁ、ちがう、ちがう。そんなにぎゅうぎゅうしたら……」
 教えてくれているのは、わたしが車長を務めるM4A1の装填手だ。相性はメッコ。さすがに今は、トレードマークのヘルメットは被っていない。
「だって、まどろっこしいんだもん……」
「それじゃだめよ、アリサ。そうねぇ、それがそう、タカシの手だと思ってやってみてよ。そんなに乱暴にできないでしょ……」
「触れるわけないでしょお?!」
「うわっ。引くわ」
 今日は二月十三日。明日が一四日で、つまり、ようするに、いわゆる、バレンタインデーだ。
 決戦の日。
 わたしことサンダース大付属高校戦車隊隊長アリサもまた、この日に照準を合わせていた一人だ。
 前隊長であるケイ隊長は、この厄介だが楽しい風習を残して去年卒業している。
17/03/02(木)02:58:07 No.408697212
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
17/02/13(月)02:54:10 No.408697260
「意外と面倒なんだなァ」
 照準といえば、こいつ。狙った的は外さないと豪語する相棒のナオミは、手伝うでもなく実習室の窓際に腰掛けて、溶かす前のビターチョコをポリポリかじっている。
「あんた、手伝わないなら向こう言ってなさいよっ!」
「まぁ、いいじゃない」
 わたしがほっぺを膨らますと、メッコはとりなすように笑う。わたしは、ふん、と鼻を鳴らした。
「あんた、あげる相手いないの?」
「さてね」
 ナオミがにやにや笑ってそっぽを向くから、わたしはまた腹を立てる。
「そりゃね、あんたはスタイルいいし、かっこいいし、こんなもんに頼ることもないんでしょうけどね。えぇえぇ。その気になれば落とし放題でしょうよ! さっすがサンダースの名狙撃手ナオミさん!」
「口より手ェ動かせば?」
「何よ!!」
「まぁまぁ……」
17/02/13(月)02:54:31 No.408697276
 トリュフ・チョコレートの手順自体はそれほど難しくない。
 チョコレートを湯煎して丁寧に溶かして生クリームを加える。洋酒なんかをちょっと入れて一口大にとって、ちょっと冷やしたら丸めて、それから飾り付け。
 テンパリング用にチョコを溶かしてそれでコーティングするか、ココアパウダーや粉砂糖をまぶすかして、できあがり。
 見た目にも華やかで一口大でかわいらしく、そしてなにより、ハート型でメッセージ入りなんかにくらべると、重くない。
「別に重くったっていいんじゃないの?」
 と、ナオミは言うが、本気度の高いチョコレートを作って渡せなかったり断られたりした時のダメージを考えると、臆面もなくハートのチョコをつくれるほどは、わたしは神経が太くないのだ。
 そんなことができるのは、相当に自分に自信のある人だろう。
「隊長とか、すっごいチョコ作ったりしそうよね」
「わっかるー。どーんとでっかいの作って、アイラービュー! とか!」
 メッコが乗ってくれるけど、ナオミは首を傾げて苦笑した。
17/03/02(木)02:58:07 No.408697212
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
17/02/13(月)02:54:54 No.408697307
「いやぁ。隊長、あれで結構気を使うから。それに、今の隊長はお前だろ」
「そうだけど」
「チョコレートってさ、手作りのほうが喜ぶもんなのかなぁ」
「そりゃ誰だってそうでしょ」
「お前も?」
「まぁね……今日はやけに突っかかるわね」
「そうかな……」
 わたしが半眼でナオミをにらむと、ナオミは昼飯の角度に視線をやって、ぱきっ、と溶かす前の板チョコをつまみ食いした。
「そうよ。それ、三枚目よ。そんなにチョコ好きだっけ?」
「嫌いじゃないよ」
「フゥン。いいけど、それ以上食べたらあげないわよ」
「くれるの?」
「あんたね」
 わたしはコーティング待ちで広げてあるチョコレートの球体を示した。ざっと二ダースはある。
「これ全部タカシにあげるわけないでしょ。鼻血だしてぶっ倒れるわよ」
17/02/13(月)02:55:12 No.408697321
 用意した箱は、それぞれ六個づつが収まるものを選んでいる。もともと、六個をタカシに、六個をナオミにあげるつもりだったのだ。余分の一二個はメッコと一緒に食べてしまうつもりでいた。わたしは用心深い。よくできたのをピックアップしてタカシへの贈り物にするのだ。二番目によく出来たぶんは。
「あんたにあげるの」
「へぇ?」
「なによ、その顔」
「いや、その」
 ナオミは目を合わせずに、にやっと口の片方だけを上げて笑った。
「あんたにはいつもお世話になってるからね……その贈り物。いらないならあげないわよ」
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
「だったら」
 わたしは腰に手を当てて薄い胸を反らせた。
「黙って待ってなさい」
17/03/02(木)02:58:07 No.408697212
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キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
17/02/13(月)02:55:29 No.408697338
 わたしのチョコレートは程なく出来上がった。
 色とりどりのコーティングをして、既製品の星型のチョコチップをまぶした、我ながら可愛らしいチョコレートだ。
 あとは箱に詰めて、ラッピングして、メッセージカードを添えて、そして明日の決戦に備える。
 ナオミのぶんにもメッセージカードを添えたいから、これは部屋でやることにして、わたしたちは他のテーブルでチョコを作っていた子たちと交換したりして、一日早いチョコパーティを洒落込んだ。
 ナオミとわたしの部屋は、寮で隣同士なんだけど、ナオミは用事を思い出したとかでどこかに行ってしまったから、わたしは一人、部屋でメッセージカードを書いている。
「何さ。なんて書くか相談しようと思ってたのにな」
 わたしはほっぺを膨らますが、しかしそれでも文才を総動員してメッセージカードを仕上げた。
 タカシへの方の文面は、三時間かけて必死で言葉をひねり出す。結局出来上がったのは、「これからもよろしくおねがいします」という、事務的な文章だったけど。
17/02/13(月)02:55:44 No.408697352
 何がこれからも、よ。これまでもよろしくされたことなんてないじゃない。
 いくつも思いつくことは思いつく。好き、とか、ずっと見てました、とか。でもいざそれを文字に起こすと、怖くて仕方ない。拒絶が怖い。
「いくじなし……」
 わたしは机につっぷした。
 いやいや、渡すときに頑張ればいいんだ。
 明日は男子艦までのヘリが出る。それに勇気を出して乗って、渡す時に好きです、って伝えるんだ。そうすればいい。そうだ、そうしよう。そうだそうだ。
「いや、ハードル高いでしょ、それ!!」
 わたしは頭をがりがりと掻いて百面相をする。もっとも百面相をしているつもりはないんだけれど、ナオミに言わせればそうだと言う。
 もうすぐ卒業だ。最後のチャンスなのだ。
 わたし自身、タカシとうまくいく未来はあまり期待していない。タカシには彼女がいるって聞くし、奪ってやろう、とか、そういう気はない。
17/02/13(月)02:55:59 No.408697367
 だからって、わたしがカレを好きだって気持ちは、それはそれとして持っていたっていいだろう。
 わたしはタカシへのカードをそっと手作りチョコに添えると、気を取り直して別の一枚を手にとった。
「今日のナオミ、ちょっと変だったな」
 相棒の皮肉げな顔を思い出す。彼女も相当に変なやつだけど、でもこんなわたしに三年間付き合ってくれたことは感謝しているし、なによりわたしは、ナオミが大好きなのだ。
 第一印象はよくなかったけど、職人肌で無口でわたしとは正反対。ケイ隊長にコンビを組まされてから、どったんばったん大騒ぎしながらも、今日までうまくやってきた。
 受験もしたし、来年はきっと大学で一緒に戦えるに違いない。
 わたしはさらさらとカードにメッセージを書いて、二番目によくできたチョコに添えた。
『いつもありがとう、これからもよろしくね。大好きなナオミへ』
 そしてにんまりと笑う。
 タカシ(と、サークルK)は無理だろうけど、来年が楽しみだったから!

 ◇◆◇
17/02/13(月)02:56:15 No.408697381
 二月十四日当日。
 結論から言うと、チョコレートを渡すこと「は」できた。
 でもそれは、その他大勢のうちの一人としてで……。
「タカシのところにぃ……女がいっぱいいてぇ……ダメよもう……埋もれちゃってぇ……」
「でもカードつけてたんだろ?」
 ナオミを引っ張り出して、盛大に口を利いてもらう。
 ナオミはいつもの、ちょっと皮肉げな笑顔で聞いてくれた。
「つけたわよ! でもあんなのつけたままで渡せるわけないじゃない!! ああぁああぁああ!! どーせわたしはその他大勢よ!!」
「取っちゃったのか……」
「取っちゃったわよ!! 笑うといいわ!!」
「笑うもんか」
 ナオミは頬杖をついて、でもはっきりと言ってくれる。
「逃げずにきちんと渡しに行ったんだ。お前は、偉いよ」
「ありがと」
 わたしはそのナオミの様子をほとんど気にもとめずに喋り続けた。
17/02/13(月)02:56:30 No.408697400
「しかも、好きな子いるからって言うの! 全部嬉しいから受け取るけど、好きな子がいるからねって言うの!! 紳士!!」
「傾いてたか?」
「え? 別に」
 ナオミが苦笑して、わたしの頭をそっと撫でる。わたしの身長が低いから、ナオミはよくこの仕草をする。慰めてくれてるんだろう。
 彼女の口元から、ちょっとチョコレートのにおいがして、わたしはほっとした。少なくともナオミはわたしのチョコを食べてくれたのだろう。無駄ではなかったんだ。
「食べてくれたの? どうだった?」
 わたしが聞くと、ナオミは一瞬言葉に詰まってから、少しだけ笑って言った。
「ちょっと、苦かったよ」
17/02/13(月)02:56:46 No.408697416
 その日は結局、ナオミが貰ったっていうチョコレートを一緒にかじって残念会。
 さすがわたしの自慢の相棒だ。こんなにチョコレートを貰っていて、腹が立つやら誇らしいやら。わたしはそれを雑に扱おうとするナオミを叱って、それぞれきちんと、最低でも一口は食べさせた。あしたはふたりともニキビに悩むことになるだろう。
 部屋に帰って、明日の授業のために鞄を整理していると、一つ、ちいさな箱が転がり出た。
 箱は簡素なもので、中には小さなトリュフ・チョコレートが二つだけ入っていた。多分、手作り。カードはなし。
 わたしは首を傾げる。
 ナオミと違って、チョコレートをくれるような後輩にはとんと心当たりがない。
「誰だろ」
 わたしはつぶやいて、しかしそれを口に放り込んだ。
 ココアパウダーのかかったそれは、ビターで、少し眠かった頭に苦く残った。

 そのチョコレートが誰からのものだったかを知ったのは、それから三年後のバレンタインデーのことになる。

END
17/02/13(月)02:58:13 No.408697507
su1748797.txt
てきすとー
もう一年か…
17/02/13(月)03:02:50 No.408697817
なげーよ
ENDまで読んだ
17/02/13(月)03:07:07 No.408698100
なんでみんな気軽にレズってるのに、ナオミだけ気軽にレズれないんだろうね…
17/02/13(月)03:28:44 No.408699418
ビターがナオアリの味
17/02/13(月)03:38:32 No.408699973
いい…苦あじいい…
17/02/13(月)03:43:42 No.408700239
> タカシ(と、サークルK)は無理だろうけど
ひどい
17/02/13(月)03:55:50 No.408700830
歴史は繰り返しすぎる
17/02/13(月)04:32:31 No.408702142
ああ…ふんぬぅ!!しちゃったチョコか…
早いな一年…
17/02/13(月)04:41:12 No.408702382
過行くサークルKは誰にも止められない…
17/02/13(月)04:49:19 No.408702591
ヘルメッ子ちゃん登校中の一コマっぽいトランプでもヘルメット被ってたけど普段の授業中とかも被ってるのかなぁ…被ってるんだろうなぁ…
蒸れて禿げるとかからかわれそうだなぁ…
17/02/13(月)06:12:15 No.408704626
早くこのナオミさん幸せにしてあげて…
17/03/02(木)02:58:07 No.408697212
1486922002906.jpg-(63523 B)
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!


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